音楽

    恋多き女流作家、ジョルジュ・サンドとパリの社交界で出会ったショパン。ほどなく恋人となった二人は、喧騒から逃れるためにマヨルカ島へ逃避行しますが、病弱だったショパンは島民たちの偏見に遭い、山中の陰鬱な修道院で数ヶ月を過ごすことに。そこで聴いた雨音からインスピレーションを受けて作ったとされています。回想から始まる冒頭で流れるのは、幼き日の亜夜と母による連弾バージョンです。
    “ピアノ音楽の旧約聖書”と称される2巻、各12曲からなるクラシック音楽の父・大バッハの代表作。当時の鍵盤楽器(チェンバロ、オルガンなど)の練習用に作られました。また、グノーが歌曲「アヴェ・マリア」の伴奏に用いたことでも知られています。実際のコンクールで弾かれることは、ほとんどありません。“消えた天才少女・亜夜”が、コンクール会場に現れるシーンで登場します。
    今でこそ“チェロのバイブル”と称されるほど、圧倒的な人気と知名度を誇りますが、元は練習曲とされ、1900年代初頭に名チェリスト、パブロ・カザルスによってその真価を見出されるまで、200年近くも日の目を見ることはありませんでした。4本の弦から紡ぎ出されるチェロの音色が、深く響き渡ります。朝の芳ヶ江を駆け抜ける、マサルのジョギングシーンで流れます。
    19世紀後半に活躍した詩人、ヴェルレーヌの「月の光」から着想を得て、作曲されました。最初は同じタイトルの歌曲が書かれましたが、数年後には言葉を用いることなく、まったく違ったピアノ曲が生まれました。ヴェルレーヌの詩には、人間の幸せに潜む闇や人生の儚さが描かれています。月夜の晩、ふいにピアノに向かった塵がこの曲を弾き始めます。
    1900年代初頭のアメリカでは、人生の幸せなひとときを記録する意味で、紙製の“ペーパームーン”を背景に記念写真を撮ることが流行したそう。ジャズのヒットナンバーとして愛されるこの曲は、「ただの紙の月でも、信じる気持ちさえあれば本物になる」という内容が歌われています。亜夜と塵二人のセッションが盛り上がりをみせる、ムーンメドレーの中盤に登場します。
    「悲愴」「熱情」と共に三大ソナタとして知られる「月光」ですが、タイトルは作曲者によるものではなく、死後に付けられたもの。自身が「幻想曲風ソナタ」と名付けたように、冒頭から幻想的な世界観に引き込まれるように、第1楽章にゆったりとした楽章を置くなど、新しい手法が多く用いられています。軽やかなジャズの雰囲気から一転、亜夜の導きでメドレーは終盤に向かいます。
    ピアノの名手だったリストの作品中、屈指の難曲と言われるこの曲は、レーナウの叙事詩「ファウスト」がモチーフ。ドイツで古くから伝わる伝説に登場する悪魔、メフィストフェレスが、ファウストと共に居酒屋に現れ、憑かれたようにヴァイオリンを弾き、村人たちを陶酔させる様子が描かれています。「春と修羅」を弾き終えた亜夜が2曲目に演奏、コンクールのさまざまな情景が映し出されます。
    デビューして間もない頃、生活のためにやむなく書いた作品であることから、自ら“駄作”と評したドビュッシー。しかし、実は同時期に書かれた「月の光」や「2つのアラベスク」などに匹敵する名曲です。フランス語の原題「Rêverie」は、眠っている時に見る夢ではなく、起きている時に見る夢を指します。夜のバーで語らう三枝子とナサニエルの背後で、自動ピアノによる演奏が流れます。
    ベートーヴェンの交響曲を敬愛してやまないブラームスが、その偉大な交響曲を前に、どのような曲を書くべきか大いに悩んだ結果、構想から完成までに実に21年を要したという交響曲第1番。ティンパニーの序奏で始まる緊張感あふれる出だしは、容赦なく音楽を追求する世界的指揮者・小野寺のイメージにぴったりです。芳ヶ江国際ピアノコンクール第10回記念コンサートに向けたリハーサルで演奏されます。
    “レクイエム”とは、死者のためのミサで演奏されることを目的とした、典礼用の曲。ヴェルディ、フォーレの作品と並んで“三大レクイエム”に数えられます。歌詞にはラテン語による典礼文が引用され、死者の安息を神に祈る気持ちが歌われています。モーツァルトはこの曲を手がけていた最中に、35歳で息を引き取りました。ユウジ・フォン=ホフマンに捧げる曲として、屋外コンサートのシーンで演奏されます。
    難曲揃いと言われるプロコフィエフの協奏曲(全5曲)の中でも、最もとっつきにくい作品でしょう。衝撃的な不協和音と悲壮感漂う旋律の背景には、この曲の制作過程に自殺した親友シュミットホフの存在が影響したと言われています。果てしなく広がる人間の負の感情を、ピアノという楽器で最大限表現した稀有な作品です。マサルが本選で演奏します。
    生涯をハンガリー民俗音楽の研究に捧げたバルトークが、1945年白血病で亡くなる直前に書いた曲。ピアニストの妻ディッタに贈る誕生日プレゼントとして書かれましたが、最後の17小節を残し、この世を去りました。前2作に比べると幾分ロマンティックな色合いを湛えており、明るく軽快な1楽章、穏やかに時が流れる2楽章、駆け抜けるような疾走感を持つ3楽章で構成されています。塵が本選で演奏します。
    20世紀最高のピアノ協奏曲との呼び声も高い、プロコフィエフの最高傑作。技巧を追求するあまり、近寄りがたさのある第2番に比べ、第3番はキャッチーなメロディと躍動感で人々の心を掴みます。至るところに散りばめられた、さまざまな音楽要素がうまく融合し、総合的なバランスの良さが際立つ名曲です。亜夜が本選で演奏します。
    【テキスト:劉優華(音楽ライター)】