登場人物

    ―まず、完成した映画のご感想を教えてください。
    「よく撮ったなと思います。(映画化の話があったとき)最初に『前編後編はやめてほしい』とお伝えはしたんですけど、2時間ぴったりにおさめた。すごいなと思います。今回は脚本も最終稿を監督が仕上げられて、監督もされて、編集もされている。すごく総合力が高い方ですよね。結果、1本の映画になっている。(原作ものは)どうしても、映像化しただけ、というものも多い。なによりも『映画として』完成していることが素晴らしいと思います。作品としての一体感がある。それがいちばんうれしかったです。石川(慶)監督の作品になっている」
    ―原作は、ハードカバー、上下段で計508ページもの大著です。
    「(小説は)長大ですから、(そのすべてを)2時間の映画にするのは、そもそも無理なわけじゃないですか。でも(原作の)コアな部分を本気で映画にしていますよね。本を読んだひとが『見たい』と思うところを映像にしてくださっている」
    ―「読者が見たいところ」とは、どういうところでしょうか。
    「私が好きなのは(栄伝亜夜と風間塵の)連弾のシーンと(4人が集まる)浜辺のシーン。ちゃんと画で語っているし、音楽が素晴らしい。(読者の)みなさんが小説の中で『聴いていた』音を、ちゃんと鳴らしてくれた。それは大きいと思います。音楽に関しては、これ以上のものは望めないんじゃないかなと思いました」
    ―「春と修羅」を実際に耳にしたときは?
    「あ、こういう曲だったんだと(笑)。(作曲を手がけた)藤倉(大)さんはすごくリサーチして『小説の中からヒントをもらった』とおっしゃっているんですよね。なるほどと。あらためて聴き直すと(小説の中でも)4人のカデンツァはこういう感じだったよねと。私の描いた通りに創ってくださっている」
    ―キャスティングについてはいかがでしたか。
    「(この小説は)ほとんどが心理描写なので、どうやって映像化するの? と思っていました。でも、そのあたりはキャストのみなさんがちゃんと体現しておられる。みなさん、ほんとうに、自然に役でいらっしゃる。
    撮影現場を見学に行き、松岡茉優さんの楽屋に入ったとき、松岡さんが立っていらして。思わず『亜夜ちゃん!』と声をかけていました。それくらい『亜夜ちゃん』でした。松坂(桃李)くんは、あんなにカッコいいのに、こんな地味な役もできるのね、と。ほんとうに上手い役者さんだなと思いました。森崎(ウィン)さんはソフトな雰囲気がものすごく出ている。しかも品がある。そして鈴鹿(央士)くんは最初会ったとき、すごく天然だなと思ったんですが(笑)映画を観ると、ほんとうに(風間塵に)成り切っていて。良かったです」
    ―小説で描かれている4人のキャラクターがそれぞれ魅力的です。
    「最初に監督が『悪い人が出てこないんでドラマになりにくいですね』とおっしゃっていたのが印象的で(笑)。でもそれは意図したところでした。たとえば鍵盤にカミソリ仕込むとか、そういうのはなし(笑)。ひたすら前向きに音楽に邁進する人たちにしたかった。裏のどろどろしたドラマとか、おそろしい人生経験が現れてくるとか、そういうことはやめていこうと。それが私にとって『音楽を描くこと』でした」
    ―キャラクター造詣はどのように?
    「最初は風間塵が野原の中に立っていて、耳を澄ましている。そのイメージから始まりました。風間塵の対抗馬で(栄伝)亜夜が出てきて。亜夜の対抗馬でマサル(・カルロス・レヴィ・アナトール)が出てきて。天才ばっかりじゃなあ、と最後に(高島)明石が出てきた。普通の人の感覚は必要でしたね。普通の人には、天才に対する屈折した優越感もあるなと常々思っていた。そういうところも描きたかったんですよね。
    関係性の話なので、才能のある者同士でないと生まれないもの、成長しないものがテーマのひとつでもありました。他人からの影響が、その人の成長にものすごく関与すると思います」
    ―天才たちの物語だけに、才能とは何か? と考えさせられます。
    「(小説を執筆する上で)コンクールに何度も足を運びましたが、聴いていても才能ってなんだろう? と思うんです。明らかにどんどん尻上がりに(才能が)伸びていくひともいるんですよ。審査員の先生方ってすごいなあと思って。こんな『のびしろ』まで見てたんだろうかと。あと、ピアニストとしては名前が知られていないけど、名伯楽、指導にすごく向いてるひともいるんですよね。それもまた才能ですよね。批評性のある耳を持っているわけですから。才能は、そういう意味で『いろんな組み合わせ』だと思います。
    ライバルっていますよね。よく思うのが、浅田真央とキム・ヨナがまったく同じ時期に出てきたこと。あれが、どちらかひとりだけだったら、どちらもこれほど大成しなかったと思うんですよ。互いの存在があったからこそ、すごく頑張れた。めぐり合わせって、すごいなと。
    そして、圧倒的な才能を目撃する、この喜びってなんなんだろう? そのときめきは、人間の中に刷り込まれているんだなと、この小説を書くことであらためて感じることができました」
    【テキスト:相田冬二】